どうして「髪」は「かみ」という名前なのでしょうか?

名前や名称の起源は考えても答えが出ないかもしれません。文献などが残っていないほど、はるかか昔の場合もありますので。

ですが調べてみたら面白い発見があるかもしれません。今回は「髪」という漢字や名称の成り立ちついての話です。

まず「髪」という漢字は音読みで「ハツ」、訓読みで「かみ」です。「御髪(おぐし)」などと読む場合もあります。

音読みは昔の中国での漢字の発音で、訓読みは日本で古くから発音されていた言葉を、中国から伝わってきた漢字にあてがったものです。

このことを参考にして、ちょっと強引に二つに分け、音読みから漢字の「髪(ハツ)」と、訓読みから日本での読み方である「かみ」とに分けて調べていきます。

「髪」という漢字の成り立ち

「髪」という漢字は「髟」という部首に「犮」という字が合わさった形声文字(意味や種類などを表す意符と、発音を表す音符がある漢字)です。「犮」が発音部分(音符)なので、音読みでは「ハツ」と読みます。

また二つの文字で一つの意味を表すので会意文字(二つ以上の漢字を合わせて一つの意味を合成した漢字)とも言われています。髪の旧字体は「髮」で、友ではありません。

「髟」の部分

「髟」は「かみがしら(または、かみかんむり)」と呼ばれており、音読みでは「ヒョウ」。「髟」の左側の「镸」は古字((昔は使われていたが、現在は使われていない漢字。))で、今で言えば「長」です。「長」は髪の長い人のことを意味し、それが転じて時間や距離が長いことを表しています。

「彡」は毛髪・装飾・光沢・模様などを記号的に表すもので、この漢字が付くものは模様や光、美しさや形など、そして毛を強調するのに使われます。

つまりこの二つが合わさった「髟」は髪の毛のことを表しています。そのため「髟」がある漢字は、意味に毛髪に関することをふくんでいます。

「犮(ハツ)」の部分

「犮(ハツ)」の部分は諸説あります。

「犬を磔(はりつけ)て殺し、生贄(いけにえ)として神にささげ、災いを取り除こうとするさま(字通より)」や「犬の走るさま(はねたり、足がばらばらに動いているさま(説文解字より)」などと言われています。

この犮(ハツ)が使われる漢字には「抜く(ぬく。抜の旧字が拔)」や「祓う(はらう)」などがあります。

これらから髪という漢字は、犮(ハツ)の「災いを除く」という意味から、長くなったら取り除かなくてはいけないものという意味から髪という漢字になったという説があります。

また、走る犬の足の動きから、髪がはねたり、ばらばらにひらくさま(漢字源より)を表しているという説もあります。

また髪を意味する「髟」に「犮(ハツ)」を声符として付けて髪となった(字通より)という説もあります。

「かみ」という言葉の成り立ち

次に訓読みの「かみ」です。日本の漢字の訓読みはその漢字の意味を表しますので、日本では頭に生えている毛のことを「かみ」と発音していたと考えられます。

この「かみ」という言葉の成り立ちには諸説ありますが、どの説も頭部に生えている毛を指す言葉が由来となっています。

髪(かみ)は上(かみ)?

ちなみに「髪(かみ)」という言葉の由来は「上(かみ)」からだ、という説があります。頭の上にあるから「上(かみ)の毛」で、それが転じて「髪(かみ)の毛」となったということです。

ですがこの説が「必ずしもそうではない」という話があります。というのも、はるか昔の時代では「髪(かみ)」という言葉は「か」と一文字だったという説があるのです。

参考元リンク:
「紙」の語源
「神」と「上」は同じ語源か?

その証拠として今でも「白髪(しらが)」の「髪(が)」はその名残なのだそうで、「み」は付きません。ちなみに「が」と濁音になるのは連濁というもので、連濁とは二つの語が結びついて一語になるときに後ろの語の頭の清音が濁音に変化する現象のことです。

それに対して「上(かみ)」はこれ以上分解した言葉はありません。なので、この二つは別の語で、語源的なつながりも考えにくいという話です。

「髪(かみ)」と「毛(け)」は、元は同じ言葉?

では、どのようにして「か」が「髪(かみ)」と変化したのかといえば、これは日本の昔の言葉遣いが関係しているそうです。

日本で奈良時代およびそれ以前に使われていた古い言葉「上代日本語」では、現在の50音よりさらに多くの音(仮名)が使われていたことが、当時の文献で使われていた「万葉仮名」から発見されています。

そんな現代にはない特殊な仮名遣い(上代特殊仮名遣)において「髪」は「髪(か)」に「甲類の『い』」という特殊な仮名が付き、その間に子音の「m」が挿入されて「kami」となったというのです。言葉の間に子音がはさまるのは日本語ではよくある変化で、例えば「鳥羽(toba)」と「羽鳥(hatori)などで見られます。

また、先程と同じように「髪(か)」に「甲類の『い』」がつくと「乙類の『け』」に近い発音になるそうで、そこから「毛(け)」となった(簡単に言えば「酒屋(さかや)」が「酒(さけ)」と発音が変わるような変化)という話もあります。

そして、さらにもっと時代をさかのぼれば、「髪(かみ)」という言葉はツングース諸語の「kagwI / kabI」が語源だとも言われています。

『髪』は縄文語で『kami』と発音され、その語源はツングース諸語『kagwI/kabI:髪』である。(資料提供:国立民族学博物館/崎山理)

情報処理推進機構:教育用画像素材集

もちろん、このツングース諸語の言葉自体の語源が「上(かみ)」を意味する言葉を由来としている可能性もあるので、なんとも言えませんが、今までの話の流れから見たら、その可能性は低そうです。

まとめ

どちらにしても髪(かみ)という言葉は、頭部の毛を指す言葉というのは間違いないようです。

ちなみに「神(かみ)」と「髪(かみ)」も同じ言葉なので、つながりがあるように言われがちですが、こちらは神の「み」と髪の「み」はまったく違う音1で、語源的つながりもありません。

今回、調べてみて「髪(かみ)」という言葉の正確な由来は、厳密なところでは分かりませんでした。

ひょっとしたら私たちの身近にある髪は、その身近さゆえに歴史がかすむほど遥か昔むかしに由来があるのかもしれません。

最後に、記事の最初のほうに出た「御髪(おぐし)」は、女房言葉(女房詞)と言われ、室町時代の頃から宮中や院に使えていた女房(女性使用人、女官)が使い始たもので、それが後に武家に伝わり、そこからさらに町民など世間一般に広まった言葉です。

この言葉は優美で上品な言葉遣いとして使われ、語の先頭に「お」を付けたり、語の後ろに「もじ(文字)」を付けたりするのが特徴です。

女房言葉は現代でもその一部が「おかか」や「おかず」「しゃもじ(杓文字)」など普段普通に使われているものもあります。

「御髪(おぐし)」の場合は相手の髪を敬って言うときに使われる言葉です。おそらく現代では使う人はめっきり減っていると思われますが、着物や日本髪が登場する場所では今でも使われている言葉です。

ちなみに、日本髪などで髪を結ったり垂らしたりする場合に足りない部分を補うために使う「髢(かもじ)」は、「鬘(かつら)」に「もじ(文字)」を付けた女房言葉が由来だと言われています。そのため「髪文字(か文字)」という当て字が使われることもあります。

髪の世界はまだまだ深く、調べればいろいら出てくるのでしょうが、今回はここらへんで締めたいと思います。


  1. 神の「み」は乙類の「み」で、髪の「み」は甲類の「み」と、上代日本語では違う音。 ↩︎