「髪や肌は弱酸性」という話をよく聞きます。

ですが、弱酸性というのは水素イオン指数(pH)です。これを測るには水分が必要です。

肌表面も髪も、見た感じでは測れそうな水分はありません。では、どうやって測っているのでしょうか?

肌は、その表面にある汗と皮脂が混ざった皮脂膜から測れます。つまり肌の pH とは、皮膚表面の皮脂と汗の pH です。

では髪は、どこから測定できるかと言えば、髪の毛が水でぬれたときにある、髪の表面や内部にある水分の pH です。この値が弱酸性なのです。

ですが、髪の場合、それだけで「弱酸性が良い」と言っている訳ではありません。もう少し深い話があるのです。

それは「髪にふくまれた水分が、どうして弱酸性になるのか?」という事にも関わってきます。

今回はそういった髪の毛の、弱酸性についての話です。

アミノ酸とイオン

髪にふくまれた水分が弱酸性をしめす理由を理解するためには、まず、アミノ酸の説明をしたいと思います。

アミノ酸とはタンパク質を組成している成分。ものすごく簡単に言えばタンパク質は、アミノ酸がいっぱい結合してできています。

そして髪も、細胞レベルで見れば大半がケラチンというタンパク質の集合体。そのケラチンタンパク質もアミノ酸で出来ています。

アミノ基とカルボキシル基

ではアミノ酸とは何か?簡単に言えばアミノ基とカルボキシル基を持っている有機化合物です。

この「アミノ基」と「カルボキシル基」の特徴はいろいろありますが、その中で今回の話のカギとなるものは、水の中ではカチオン(陽イオン)アニオン(陰イオン)といったイオンになることです。

つまり、次のようになります。

  • アミノ基――水素イオン(H+)を受け取り陽イオンになる
  • カルボキシル基――水素イオン(H+)を放出し陰イオンになる

酸性アミノ酸と塩基性アミノ酸

そのアミノ酸も1種類だけでなく、多くの種類があります。「システイン」とか「グルタミン酸」といった違いです。

その種類のどこが違うかといえば、アミノ基とカルボキシル基以外に、くっ付いている分子です。

これは側鎖と呼ばれる部分で、この分子の違いによって「親水性・疎水性」「塩基性・酸性」といったアミノ酸の性質が変わってくるのです。

この内、側鎖にカルボキシル基をふくむ物を酸性アミノ酸と言います。

そして、側鎖にアミノ基をふくむ物を塩基性アミノ酸と言います。

酸性アミノ酸は、アスパラギン酸・グルタミン酸といったアミノ酸で、側鎖にカルボキシル基を持ちます。

塩基性アミノ酸は、アルギニン・リジン・ヒスチジンなどのアミノ酸で、側鎖にアミノ基を持っています。

酸性アミノ酸は、側鎖のカルボキシル基が水素イオン(H+)を放出するため陰イオンとなり、水溶液は酸性を示します。

塩基性アミノ酸は、側鎖のアミノ基が水素イオン(H+)を受け取ることで陽イオンとなり、水溶液はアルカリ性(塩基)を示します。

pH(水素イオン指数)は水溶液中の水素イオンの量によって変わりますので、その数(濃度)が増えたり減ったりすると、水溶液の pH は酸性側やアルカリ性側に移動します。

つまり、これらのアミノ酸が水中にあると、酸性やアルカリ性をしめすのです。

陽イオンと陰イオンと双性イオン

つまりアミノ酸は、最低でもアミノ基とカルボキシル基を確実に持っているので、先程の話のような水に溶けるアミノ酸は、陽イオンと陰イオンという2つの極性を持っています

このような2つの極性を持つアミノ酸は、水中ではちょっと特殊な事が起きます。

アミノ酸が水溶液中にあるときアミノ酸はイオン化するのですが、そのとき「陽イオン」と「陰イオン」、そして「陽イオン(+)と陰イオン(-)のどちらも持つ双性イオン」という、3つの状態になります。

3つのイオンは同じ水溶液中に存在し、その間では水素イオン(H+)と水酸化物イオン(OH+)が相互に移動し、下のような平衡状態になります。

陽イオン ⇄ 双性イオン ⇄ 陰イオン

この状態は特徴がありまして、『水溶液の pH が変われば、陽イオン・双性イオン・陰イオンそれぞれの割合が変わる』という動きをします。

簡単に言えば、酸性側に傾けば、陽イオンの数が増え、陰イオンの数が減ります

逆に水溶液がアルカリ性(塩基)側に傾けば、陰イオンの割合が増え、陽イオンの数が減るという現象がおきます。。

等電点

そして、この割合を双性イオンもふくめた全体からみて、陽イオンと陰イオンの量が同じ、つまりプラスとマイナスの電荷の総量が 0 になる pH を等電点と言います。

簡単な例ですが、先ほどの酸性アミノ酸の場合、カルボキシル基が多くくっついています。

このカルボキシル基が余分にある分、中性の状態では水素イオンを多く放出するため、陰イオンの割合が多くなります。

これを電荷の総量が 0 の等電点にするには、水溶液から受け取る陽イオンの数を増やし、アミノ酸の陰イオンの割合を減らさないと等電点になりません。

つまり、水溶液中に水素イオンが多い、つまり酸性の水溶液なら、このアミノ酸は放出する量も受け取る量も同じになり、アミノ酸の電荷の総量も 0 になり。つまり等電点になるのです。

ちなみみ等電点でのアミノ酸は、そのほとんどが陽イオンと陰イオンの両方を持つ双性イオンになっています。つまり、陽イオンの数と陰イオンの数が同程度になるのです。

髪の極性

これらの話を踏まえた上で、髪の話に戻ります。

髪の成分であるケラチンタンパク質は、上記のようにいくつものアミノ酸が結合してできていて、アミノ酸同士の結合は先ほどのアミノ基とカルボキシル基によって結合します。

あるアミノ酸のアミノ基が、別のアミノ酸のカルボキシル基と結合し、それがまるで長い鎖のように何十、何百という分子になります。この結合を「ペプチド結合」と言います。

これらペプチド結合の主となる結合は「主鎖」と呼ばれるのですが、先ほどの話でも出ていた「側鎖」の部分は、そのままペプチド結合の側にくっついています。

髪がぬれた時の pH

この上記のような結合をしたアミノ酸が水に触れるとどうなるでしょう?

側鎖にはさまざまな原子・分子がいっぱいついています。その中には水溶液中で水素イオンを放出する酸性アミノ酸の側鎖や、水素イオンを受け取る塩基性アミノ酸の側鎖もあります。

そうです。この側鎖にあるイオン化する部分が水にふれることで、pH が変化するのです。

酸性アミノ酸や塩基性アミノ酸といったアミノ酸の配合比率は個人差などがあり、それぞれ割合が変わるのですが、基本的にはどの髪の毛も酸性アミノ酸がわずかに多いのです。

なので、髪にふくまれた水の pH は、弱酸性を示すのです。

髪の毛の等電帯

このように髪にふくまれた水が弱酸性を示すということは、髪には水素イオンを放出するカルボキシル基が多いということです。

これは、先ほどの等電点の話で言えば、中性の水では水素イオンを放出する量のほうが多くなり、陰イオンの割合が増えます。つまり等電点ではない。これが等電点になると、陽イオンと陰イオンの割合は同じになります。

この陽イオンと陰イオンは、髪の毛内部で隣あっていると、陽イオンはプラス(+)、陰イオンはマイナス(-)の電磁気的な性質を持っていますので、おたがい引き合い、結合します。これがイオン結合です。

等電点ですと、この陽イオンと陰イオンの割合、つまり数が最も多い状態です。ですので、結合の数も1番多くなり、それはつまりイオン結合が1番強い状態なのです。

この等電点から離れると、この陽イオンと陰イオンの割合が変わってきます。離れれば離れるほど片方にに偏り、それ以外は減ります。このような偏りが生じると、陽イオンの数と陰イオンの数も変わり、プラス(+)とマイナス(-)で引き合っている数も減ります。

つまり、等電点から離れるとイオン結合の数も減り、結合の力も弱くなるのです。これは等電点から離れるほど大きくなる、つまり結合が弱くなります。

この等電点になる pH は髪の毛にふくまれるアミノ酸の種類と量で変わります。ですが髪には個人差があり、その髪によってふくまれているアミノ酸の種類や量に違いがあるのです。つまり、髪によって等電点が違います。

ですので、髪の等電点は特定の数値がだせません。ですが、だいたい pH 4.5~5.5 ぐらいの間になると言われています。この等電点の平均的な範囲を等電帯と呼び、髪の毛の場合は等電点といわず「等電帯」と呼びます。

まとめ

まとめますと、髪の毛は水に触れると水素イオンを多く放出し、弱酸性を示します

そして、弱酸性の水溶液中ですと、受け取る水素イオンと放出する水素イオンが同じぐらいになり、髪の毛の陽イオンと陰イオンが同程度になります。

その髪の毛の陽イオンと陰イオンの量が同程度になる弱酸性ぐらいのときが、髪のイオン結合がもっとも強い状態になり、ここから離れるほど、結合の強さは弱くなります

この弱酸性から離れている水などの中性では、髪の毛のイオン結合はすこし弱くなり、イオンの割合も陰イオンが多くなります。

シャンプーのアニオン(陰イオン)界面活性剤が髪に付きにく、リンスやコンディショナー、トリーとメントなどのカチオン(陽イオン)界面活性剤が髪にくっつきやすいのも、この性質を利用しています。

また、パーマやカラーといった強いアルカリ性に傾くと、この結合はさらに弱くなります。同じように強い酸性に傾いても、髪の結合は弱くなります。

※引用・参考URL
アミノ酸 - Wikipedia
天然高分子化合物|等電点について詳しく教えてください|化学|定期テスト対策サイト
アミノ酸の電離平衡と等電点と電気泳動、グリシン陽イオンの二段階中和 | 受験の月
水素イオン指数 - Wikipedia