髪の毛は引っ張っても簡単には切れない強い強度「ハリ」があります。
そして髪の毛は、曲げても元に戻ろうとする弾力「コシ」もあります。
このような組織は、人体の組織でもなかなかありません。そして、この秘密は、髪の組織の結合にあります。
実は、髪の毛を作っている結合は1つではなく、4つもあるのです。
今回はこの髪の結合についてのお話です。
髪の毛の4つの結合
髪の毛は大部分がケラチンというタンパク質でできています。
このケラチンの内部を簡単に言えば、間充物質に包まれた繊維状の組織が、ぎっしり詰まっています。
この繊維状の組織は、それだけではバラバラになってしまいますが、そうはなりません。それはさらに細かい部分、分子と分子との間で結合しているためです。
この分子間を結ぶ結合は、すでに書かれているように、4つ存在します。
アミノ酸同士の結合『ペプチド結合』
ケラチンというタンパク質はアミノ酸が結合して、できています。
このアミノ酸同士で結んでいる結合のことを、ペプチド結合と言います。
この結合は、アミノ酸の一部分(アミノ基)と一部分(カルボキシル基)だけが結合してつながります。結合が長くなると、まるで一本の長い鎖(くさり)のように見えるので、ペプチド鎖(またはポリペプチド鎖)などと言います。
つまり、ケラチンという分子を構成している結合です。ケラチン分子の特徴として、らせん状に結合しているため、引っ張りに強い強度と、弾力があります。
また、この組織は、部分的に隣り合ったケラチン分子ともペプチド結合している、と言われています。
ペプチド結合は化学薬品につけるなど、何らか化学的な処理を行わないと切断できません。つまり、普段の生活でこの結合が切れることは、ほぼありません。
ちなみにペプチドの語源は、ギリシャ語の「消化できる」に由来しています。
水で切れる『水素結合』
さきほどのケラチン分子はさらに、分子間で隣り合った水素原子と酸素原子が結合しています。この結合を水素結合といいます。
水素結合は髪の毛の結合の中で、最も多く結ばれている結合です。そのため、髪の形や弾力に大きく関与しています。
この結合は、髪が水分をふくむと簡単に切断します。髪がぬれると柔らかくなったり、くせ毛の形状が変わったりするのは、このためです。
逆に水分がなくなると再結合します。その時、髪を曲げるなどして形を作っておくと、その形のまま結合します1。
寝癖ができるのは、この結合が原因です。また、ヘアスタイルをセットも、この結合を利用しています。
アルカリで切れる『イオン結合(塩結合)』
髪の毛のケラチン分子には一部がイオン化しているものがあります。イオン化とは簡単に言えば、分子が電気的な性質を持つことです。
電気的な性質を持つため、隣り合った分子間で、正と負の2つのイオン化した分子が隣り合うと、そこが電気的な力で引き合い、結合します。
このようにイオンによって起こる結合をイオン結合または塩結合と言います。
このイオン化は薬液などの pH によって数が変化します。つまり、アルカリ性や酸性に変化すると結合が切れるのです。
逆に言えば、適切な pH であれば、イオン結合する部分が多くなり、結合が強くなります。
その pH の値は髪のアミノ酸の種類によって変わりますので、個人差がすごくあるのですが、だいたい4.5~5.5の弱酸性が多いと言われています。これが「髪に弱酸性がいい」と言われる理由です。
この最も結合が多くなる弱酸性から離れれば離れるほど、結合が弱くなります。
そのため、弱酸性から大きく離れているアルカリ性側は、結合が簡単に弱くなります。
そして、あまり知られていませんが酸性側、つまり強酸性でも、結合は弱くなります。
還元剤で切れる『シスチン結合(ジスルフィド結合)』
先ほどアミノ酸の話がでましたが、その中でも最も多いアミノ酸が「シスチン」です。
このシスチンは、元は「システイン」というアミノ酸なのですが、微量の重金属イオンで容易に空気酸化され、シスチンになります。
ところで、タンパク質を分解してアミノ酸を分析するには、塩酸での加水分解が最もポピュラーな方法なのですが、この分析方法ではシスチンは分解されず、多くはそのまま検出されます。
これはシスチンが強固な結合で結ばれている証拠です。
つまり、この結合はケラチン分子間でも強固な結合として働いていて、ケラチンタンパク質の特徴のひとつでもあります。
この結合のことをシスチン結合またはジスルフィド結合と言います。S–S(エスエス)結合と言うこともあります。
上記のように非常に強固で、そう簡単には切れない結合のですが、パーマ液などで使われる還元剤などで還元すると結合は容易に切断されます。
切れた結合は酸化剤などを使えば再び結合します。この化学反応を利用したものがパーマネントウェーブやストレートパーマなどです。
また、非常に高温の水蒸気や、アルカリ性水溶液で100度前後まで加熱すると、結合は切断されます。熱が冷めれば再結合するのですが、この時、元のシスチン結合とは違う結合(ランチオニン結合)となります。
こちらの結合になると、還元・酸化で元には戻らなくなり、パーマのような切断・再結合といった特徴を失います。またシスチン結合の量が減るので、髪の毛の強度が落ちると言われています。
まとめ
以上が髪を構成する4つの結合です。
最初のペプチド結合以外の3つの結合は、生活の中でいろいろ関係してきます。
水素結合は洗髪やセット、イオン結合やシスチン結合はパーマやカラーといった、理美容店で行うメニューに大きく関係しています。
また、この3つの結合は分子と分子で橋をかけるような構造で結合しています。このような結合を架橋結合または橋架け結合などとも言い、これにより、まるで網目のような構造になっています。
この構造はとても強く、同じ構造のものではゴムなどです。髪の毛に関しては縦の引っ張りに特に強く、引っ張りに強く、弾力を持ちます。
このような結合と構造によって、髪の毛は強い引っ張り強度(ハリ)と弾力(コシ)があるのです。
正確には完全にその形で固定する訳ではなく、少し元の形状に戻ろうとする力が働きます。ちなみにその力は、状態を保とうとする力が70%、元に戻ろうとする力が30%ほどあると言われています。 ↩︎